恋文の技術   あの人に手紙を送りたくなる

恋文の技術
昨日のリストにあった本、さっそく読みましたそしてさっそく書きます。森見登美彦さんの本は「夜は短し歩けよ乙女」と「美女と竹林」を読んだことがあったのですが、相変わらずこの「恋文の技術」も可笑しいお話です(笑)全編主人公の守田が「文通武者修行」と言って知り合いに送りに送った手紙で構成されている本なのですが、それも巧かったなぁ。ある人への手紙に書いたエピソードの元ネタが別の人宛ての手紙にあったり、ある人への手紙で使った言い回しを他の人宛ての手紙でも使ったりと、読んでいて繋がる快感がありました。特に第九話「伊吹夏子さんへ 失敗書簡集」で、それまで頻繁に出現していたコヒブミー教授のエピソードが守田君のその場で思いついた適当なウソというわけではなく、守田君の恋心をそのカオスな頭脳が表現しようとして意図せず生まれてしまったある種の特異点であった(適当)ということが明らかにされた時は、もう守田君がかわいくて仕方なかったです(笑)


この守田君という人は、妹に「京都の心配より自分の将来を心配しろ」と言われるような本当にダメなやつなんですが……これが共感できるんですよね。片思いの相手に手紙を書こうとして書ききれず、出せないまま数カ月が過ぎたりするのがスゴク……分かるなぁ。僕もそういう人なんですよ(笑)


守田君の書く文章はとても面白くて可笑しいんですが、時折とても心に迫るセリフもあります。例えば

恋文というのは、意中の人へ差し出すエントリーシートでしょう。就職といい、恋人といい、俺にはエントリーする能力が根本的に欠けているのだと思います。このまま手をこまねいていては、人生にエントリーできなくなる。どこにもエントリーできない俺は、女性にも会社にも求められることなく、詭弁通りを踊りながら中空をふわふわ漂い続けるのです。いつまでも、どこまでも―



恋文の技術 百八十五頁

とか。多分守田君のことを理解できない大学生はいないはずです!……や、実際どうかは分かりませんが。僕はとてもとても守田君ですね。あんな面白い文章は書けませんし、発想もあんなに変ではありませんが(笑)そしてその守田君がついに片思いの伊吹さんへ書いた手紙である最終十二話「伊吹夏子さんへの手紙」は、実に鮮やかにさっぱりと終わっています。ユニークな文章とは裏腹にうじうじと悩んでいた守田君があそこまでたどり着けたことに、「よくやった守田!」と拍手を送りたかったですね。いやぁ……これはそれまでのノリとは違ってスゴク優しい話というか…可笑しくないんですよね。何か変わったというわけではないんですけど……とても良い。僕もああいう風に「やむを得ぬ!」と言える境地に到達すべく精進すべきだと思います……と守田君が言っていましたが、僕もああいう風に「やむを得ぬ!」と言える境地に到達すべく精進すべきだと思います。大事なことなので二回言いました(笑)



総じて可笑しい文章で笑えるので、サクサク読めます。特に第五話
女性のおっぱいに目のない友へ
が一押しです(笑)「方法的おっぱい懐疑」って……頭に蛆が湧いているとしか思えない発想ですね(褒め言葉)。なんとこの第五話には「おっぱい」という言葉が百五回も出ているのです!(数えました!)章タイトルと「乳」「081」というのを含めると総数百八!なんというこだわり!「おっぱいは世界に光をもたらす。光あれ」もうなんでしょうねこの人たち(笑)


装丁もなかなか良いですよね。この、風船に結ばれた恋文が心を揺さぶります。多分。