ファミリーポートレイト  〜憶えていたいと思ったことを憶えていたい〜

ファミリーポートレイト

ファミリーポートレイト

あれ?桜庭一樹なんか優しくなってない?…というのが一読しての感想でした。


桜庭一樹という作家は、思春期*1にある人間に早く大人になれよ!というようなことを言う作家だと僕は思うのですね。"そこ=思春期に在るもの、感じたものは、否応なく変わっていく"というテーマを僕は桜庭さんの小説に感じます。その"変わっていってしまう"ことがもぅ…悲しくて切なくてね。


「私の男」の構成なんて、まさにそれを味わわせるために組んだとしか僕には思えません。あのラストなんて、もう少しで泣きそうでしたよ…あぁ、こんなに鮮烈で真っすぐな感情も、変わっちゃうんだ、、永遠には続かないんだ、、それが大人になるっていうことなら、こんなに寂しいことはない。


まぁそう思うことが、僕がまだ思春期を脱しきれていないことの証なのかもしれませんね。でも昔に比べれば今の僕は成長しているのかな…と思います。こうやって桜庭小説を愉しめていますので(笑)僕の桜庭一樹初体験は高校時代に読んだ「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」なのですが、感想ははっきり言って大っ嫌いでしたね(笑)余りにも不愉快だったので物理の授業中、隣の席の奴に延々と愚痴をこぼしてましたね。彼には悪いことをしました。この場を借りて謝っておきましょう(笑)

私の男

私の男

そして、このファミリーポートレイトという話は、今までの桜庭一樹さんの小説同様に"変わっていく"ことを、"それが今は存在しない"ことを描いているのですが、これまでとは違いそこに"でも確かにその時が在った"という眼差しが感じられました。…そうですよね、たとえ否応無く大人になっていくとしても、思春期のあの情動が無くなってしまったとしても、どんな人にもやっぱりその時代はあったんですよ。苦くて甘い、純粋だったあの時代の自分は多分幸せだったでしょう。その幸せから抜け出して*2、大人になった今の自分はその時の心を持っていないことでしょう。でもあの自分が、純粋な心が存在したと思えることは幸せなことだと僕は思います。


ヒロインのコマコも、自分とママの逃避行がまるで夢だったかのように思えて、しまいには全部自分の創作だったんじゃないかとも思ったけれども、ちゃんと見つけるんですね。自分とママとの逃避行、幸せだったあの日々が確かに存在していたと証明してくれるポートレイトをね、ちゃんと見つけるんです。最近涙もろくなっているのか、ここを読んだときも泣きそうでした、というか涙は出ました。


ちなみに、ファミリーポートレイトを読み終わった後に、ちょうどシムーン*3も観終わったのですが似たようなもの、というか同じものを感じました。というわけでシムーンの感想も近いうちに書きます。


それとタイトルの"憶えていたいと思ったことを憶えていたい"というのは「キノの旅〜記憶の国〜」の扉に書いてある言葉です。その心がもぅ無いとしても、そういうモノが確かに存在していたということは憶えていたいですね。

*1:というか青春?モラトリアム?永遠の日常?まぁそんな感じのもの

*2:作中の言葉で言うと幸せから立ち直ること

*3:アニメです