この広い世界にふたりぼっち   自分の檻の中に沈まないように。

この広い世界にふたりぼっち (MF文庫J)
「蝶々」が一番好きです。一番哀れだとも思います。でも、ある意味では彼女がこの物語の中で一番優しかったと思う。


なんというか……正直咲にもシロにも、勝手に世界に絶望してんじゃねぇー!と言いたくて言いたくてたまらない。彼女らは勝手に自分が異端だと思っているだけだと思う。勝手に孤独だと思っているだけだと思う。「痩せた犬」のエピソードにあるように、周囲がどんなに手を伸ばしても彼女らは自分は異端だから孤独だからと、その手を無視するだろうなぁ。……まぁ確かに彼女らは異端だったろうとは思います。でも決して、孤独なんかでは無かったよ。周りはちゃんと支えようとしてくれたと思う。特にシロは、本当なら群れの長になるはずだったんですよね。どれほどの想いだったのかと思う。灰色の毛並みを持たずに生まれてきたシロを、受け入れているのは間違いない。シロが咲を娶らなければ、そのまま群れと一緒になれただろう。それを「ここは自分の居場所じゃない」と勝手に決め付けて……自分は孤独だという思いに囚われて、周囲の優しさを見ようともしなかった愚か者です。「お前と話したいと思っていた」と言う兄を「異端と何を話すのか」と切り捨てる大バカ者です。咲にしても彼女の環境は確かに酷いものだったけれど、相手の差し出す手を振りきったのは、やはり咲の方ですよね。転校生は本当に咲を引き上げようとしているように思える……


その流れで「蝶々」が哀れなんですよね……「蝶々」は本気で友達が好きで本気で護ろうとしていたのに、当の友達が「蝶々」と一緒にいたのは「苛められないようにうまく立ち回っていた」だけだなんて……だから自分を護れなかった「蝶々」とはもう会いたくないだなんて…何だそれは!と泣きたくなります。こいつもね、咲やシロと一緒ですよ。「異端」が「弱者」に変わっただけで。「蝶々」がどれほど自分を大切にしていたか気づかなかった大バカ者。結局、自分しか見ていない、なんて傲慢な連中だと思います。


こういうのを見ていると、自分を救えるのは自分でしかないんだなぁと思います。自分は異端で孤独で、世界は「自分を緩慢に殺そうとしている」と思いこんでいる人間を、助けよう助けようとしても他人の言葉は何も届かないんですねぇ……。檻に囚われているというのかな。。今まさにアニメの始まった「化物語」で忍野メメ氏が「僕は助けないよ。君が勝手に助かるだけだ」という様なことを言っておられましたが、結局はそういうものなのかもしれません。


なんだかんだ言いましたが、僕はこの話嫌いじゃないなぁ。咲とシロがこのまま二人閉じていくのかそうでないのか、とても見てみたい。閉じていくだろうなと思うけれど、たとえそれでも良いと思う。次も買いますねこれは。